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 #003 R168と五新線


●その2

先ほど西吉野町宗川野で五新線の宗川橋梁をくぐると、R168は天辻峠を目指すべく、小刻みにカーブしながら急勾配を登ってゆく。センターラインのある二車線路なので、走る分には何ら問題は無いが冬季は凍結する恐れがあるので注意。
 西野トンネルを抜けた先で左から旧道と合流する。そしてヘアピンカーブを経て、年季の入った新天辻隧道を抜け旧大塔村に入る。道の駅吉野路大塔の脇を抜け、急カーブと下り勾配を下りきると猿谷貯水池のほとりに出る。しばらくすると、左手の山裾に何やら怪しげなコンクリートの構造物が見える。車を停めて振り返ると…



小断面のトンネルらしき穴
坑口には扉が設置されており入坑は不可
そしてその穴の脇には…

素粒子(ニュートリノ)と暗黒粒子(ダークマター) (中二並の命名)
「西吉野村」も「大塔村」も現存せず 両者とも現在は五条市

何やら阪大が宇宙からの素粒子とやらを測定するために使っているらしいこの穴、何を隠そうこれがさきほど宗川橋梁で別れて以来の五新線の遺構(天辻トンネル)なのである。但しこの穴の反対側は宗川橋梁に直接つながっている訳ではなく、西吉野町立川渡の集落外れの山中にぽっかり口を開けている。西野トンネル手前のR168の旧道からも見える(グーグルのストリートビューで確認できる)が、管理されているか怪しい旧道に3ナンバーの自動車を突っ込む勇気はさすがにヘタレな私にはない。五条側坑口の探索はオブローダーの某氏に任せておこう。(他力本願)
 総延長が5039.5m、両端の坑口の標高差が114mだから、手元の電卓を叩いてみると勾配は約22‰となる。開通したとしてキハ40のような気動車が走るには結構辛いのではないか?

余談だが、廃線探索のバイブルこと某文献には「五新線は天辻峠をループトンネルで抜ける計画であった」などと記されているが実際にはこのように貫通しており、かつ直線であってループトンネルではないので誤植と見られる。尤もループトンネルは別トンネルとして立川渡手前で造られる予定であったので強ちミスとも言い切れないようである。


振り返るとそこは湖面

五新線は路盤が完成した西吉野の城戸までを暫定的にバス専用道とし、城戸から先はここ旧大塔村の阪本まで建設し、「阪本線」として先行開業させる予定であった。しかし阪本線として開業したところで大赤字になることは火を見るより明らかであり、21世紀の今日まで路線が存続しているとは思えない。路線の真の終着駅となるはずだった新宮は遥か先である。
 さて、阪本駅はおそらくこの湖畔付近に設けられる予定だったと考えられるが、近隣に十分な平場など存在しない。阪神電車の武庫川駅のように、水面上に駅を設置するつもりであった?


単なる廃線探索ならばこの場で引き返すところである。実のところこの先に五新線の遺構は皆無である。だが我々一行にとって五新線探索は目的の一つにすぎないので、このままR168を南下することにした。




阪本を境に、これまで概ねセンターラインありの快走二車線路であったR168は狭隘路が姿を現すようになる。交通量は決して少なくなく、時折大型観光バスやダンプカーとも離合する。出来れば未改良の狭路では対向したくないものだが、そんな時に限ってダンプカーが前からやってくる。しかも、台数が半端ないので離合可能なポイントを見極めながら走らねばならない。
しかし譲ったのに挨拶一つしない某観光バスの運転手って何なの…ブツブツ

ところで旧大塔村の南端近くに宇井(うい)という集落があるが、私はふと集落手前の桟橋を渡りきった地点にて車を停め振り返った。

山肌がまるでメロンパンの表皮

過剰なまでにコンクリートで山肌が固められているが、これこそが2004年に発生したR168の大規模な崩落現場である。 ちょうど私は崩落後に現地を通過しており、その際に撮った写真が以下である。


対岸の道より崩落現場を臨む 2004年10月

近畿圏の住人なら当時のローカルニュースでおそらく一度は目にしたことがあると思う。斜面がズルッと滑り、素人目に見てもこれは復旧無理だな、と思った現場が見事なまでに復旧されている。この国の土木技術は本当に恐れ入る。


同じ場所にて 川筋を臨む

十津川が削った深い谷の中腹の道がR168。この場に限らず、R168は延々とこのようなクリティカルな所を通っている。 程なくして日本一広い村である十津川村に入る。十津川村となっても道路の具合は相変わらず。1.5〜2.0車線の狭い道が続いたかと思えば、突如トンネルと橋を多用した高規格な改良路になることも。そしてあちこちで土砂崩れの復旧現場が見られる。
 そういえば一昨年の夏、集中豪雨によりこの地域一帯で土砂崩れが多発し、複数の天然ダムが発生したというニュースは記憶に新しい。大雨が降れば土砂が崩れ、道が不通となる。R168は十津川村の生命線だ。維持できなければ流通どころか村そのものが孤立する。「公共事業は無駄である!(キリッ」一辺倒な今日。他所者ながら、ここまでR168を走った中では一つも無駄であるとは思えない。ステレオタイプな意見を鵜呑みにするヤツが嫌いなのだ。

閑話休題。山中の巨大な吊り橋「谷瀬吊橋」のある上野地を抜け、風屋ダムを眺めながらしばらく走ると、十津川村の役場のある小原地区に着いた。ここには道の駅もあるが、それよりも「湯泉地温泉」なる温泉のほうが気になった。ということで寄り道し風呂に浸かることにする。


湯泉地温泉公衆浴場 泉湯

【表1 湯泉地温泉 泉湯 データ】
入湯年月2013.3
料金¥400
営業時間10:00〜21:00
定休日:火曜日
備品など石鹸・シャンプーなし
泉質単純硫黄泉 源泉温度60℃
データ年月2014.3
備考源泉掛け流し

ちょうど昼頃だったためか、館内には私以外に客はおらず、「たのしいかしきり」風呂を堪能することが出来た。近畿圏では貴重な、硫黄の臭いがする湯である。十津川村では他に少し離れた平谷地区に「十津川温泉」があり、いずれも源泉かけ流しである。

リフレッシュしたところでさらにR168を南下する。高規格な「十津川道路」を抜け、先述の平谷を通過し最凶国道の異名を持つ[要出典]R425と分かれる。この辺りからは小刻みなカーブこそ続くが道幅は2.0車線以上あるので走りやすいマシである。ここから川筋に沿って果無山脈(意味深)を越えるが、県境までは1959年のR168全通まで車道が存在しなかったらしい。

 二津野ダムを越えた辺りに無料の休憩所を発見し、一旦休憩をとる。ふと眼前に咲き誇る一本の桜を発見…


吉野(郡)の桜と平沢憂(うい)ちゃん さっきの地名が伏線?

休憩所の先でまたも高規格道路(五條新宮道路)が再登場し、ハイペースに車を走らせる。かと思いきや、県境をまたぐまだ真新しい土河屋トンネルがコンクリ剥離などという理由で通行できず、旧道に降ろされる。奈良県最南端(飛び地除く)の集落・七色を過ぎると和歌山県となる。



〜つづく〜

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